【2.死亡逸失利益における基礎収入|交通事故の消極損害】

逸失利益額決定のメインファクター

死亡逸失利益の基礎収入額の算定ルールや事例を紹介します。

 

後遺障害逸失利益の場合は、基礎収入額と労働能力喪失率が金額を左右するポイントになります。

 

しかし、死亡逸失利益は基礎収入額でほぼ決まってしまいます。

 

つまり、基礎収入額の認定が踏ん張りどころです。

 

交渉次第で高めに設定できた事例も多いようなので、担当の弁護士さんにがんばってもらいましょう。

 

事例は主に「赤本(※)」から抜粋しているので、正確な情報が必要な場合は原本を参照してください。

 

※「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」 弁護士が賠償請求額を決める時に使うバイブル

 

1.有職者

 

1)給与所得者

事故前の収入を基礎とするのが原則です。

 

現実の収入が賃セの平均額以下の場合、平均賃金を得られる蓋然性があれば、平均賃金の使用が認められます。

 

30歳未満の若年労働者の場合は、全年齢平均が用いられることが多いです。

 

以上が原則ですが、実際にはこれより有利な条件を採用された例もその逆もあります。

 

担当の弁護士に赤本の判例をよく研究してもらって、有利な条件を勝ち取りましょう。

 

  • 22歳の会社員。明確な昇給規定のない会社だったが、同僚の現実の昇給率で基礎収入を算定することが認められた。
  • 居酒屋アルバイトの女性。現実の収入は低かったが、バイトをしながらモデルを目指していたため。賃セ全労働者学歴計全年齢平均470万円が認められた。
  • 大手鉄道勤務の男性。会社の昇給規定に基づいて60歳まで算定。さらに65歳までの再雇用制度があることも反映。
  • 36歳森林作業員。日給作業員で年収336万円だったが、勤務を続けていれば月給作業員になれる蓋然性はあったとして、賃セの平均492万円を採用。
  • 証券会社の外務員。歩合給は景気変動で大きく変わるので、直前の収入でなく、過去5年の平均を採用した。
  • 飲食店勤務で年収273万円。しかしかつてスナックを経営していた頃は661万円。また経営に乗り出す蓋然性は十分あるとして、両金額の中間値467万円を採用。

 

2)事業所得者

申告所得を参考にしますが、現実にはできるだけ損金計上を増やして所得を少なめに申告するのが慣例。

 

だから申告所得が基準では不利になるケースが多いです。

 

立証があれば、実収入を基礎収入として採用してもらえます。

 

また、現実の収入が平均賃金以下で平均賃金を得られる蓋然性があれば、賃セも使用されます。

 

  • 内装工。申告所得は346万円だったが、代金の振り込みは年700万円あり、平均賃金を得られる蓋然性は高いとして、賃セ547万円を採用。
  • 新規事業を始めて11カ月は赤字だったが、直近2カ月は黒字化していた人。前職での収入からみても平均賃金を得られる蓋然性はあったとして賃セを採用。
  • 事故まで半年休業していた高齢の理髪店経営者。事故直前に再開を告知していたことから、休業前3年間の平均を採用。

 

3)会社役員

労務提供の対価部分は認容されますが、利益配当の部分は消極的です。

 

つまり、部長クラスの仕事しかしていないのに何千万円ももらっていたら、その会社での部長クラスの給与+αくらいしか認められにくいということです。

 

しかし、高額な報酬でもその人が死んだことによって壊滅的な影響が出たりすると、報酬に値する仕事ができていた証明とみなされたりします。

 

  • テレビ番組の企画制作会社代表。死後に会社が清算されていることから、実収入2213万円の役員報酬全額を労働の対価と認定。
  • 同族会社の代表取締役。直近2期が赤字なのに1千万円以上の役員報酬。ゆえに全額が労働対価とは認められず、80%を認定。

 

2.家事従事者

賃セ産業計企業規模計学歴計女性労働者の全年齢平均が基本です。

 

有職主婦の場合、実収入と賃セの高い方を取ります。

 

職業収入と家事対価の両方は認めないのが一般的です。

 

高齢の人でも結構取れていたりするので、弁護士さんにしっかり交渉してもらいましょう。

 

また、男性でも出ます。しかし、女子の平均賃金が適用されます。

 

  • 家事の傍ら漁業を手伝っていた61歳の主婦。賃セ中卒平均を基礎とすべきという被告の主張を斥け、女性学歴計全年齢平均351万円を13年間認めた。
  • 6人家族の家事を担っていた71歳の主婦に300万円を9年間認めた。
  • 妻の介護、リハビリ送迎、孫の世話をしていた76歳の無職男性。自賠責女子支払い基準283万円を基礎に生活費控除率35%で認定。

 

3.無職者

 

1)学生・生徒・幼児等

賃セ産業計企業規模計学歴計男女別全年齢平均が基本。

 

女子であっても女性労働者の全年齢平均ではなく、男女計の全年齢平均を使うのが一般的です。

 

大学に進学していない段階でも大卒賃セが認められることがあるが、就労の始期が遅れることで逆に逸失利益が減る場合があることに注意。

 

利率5%での中間利息割引き(ライプニッツ係数)の威力はとても大きいのです。

 

  • 高2。勉学への意欲があり、家庭環境も大学進学を当然視するもの。当人も進学を希望していた。大卒賃セを採用。
  • 高校中退の17歳。家族の会社を手伝うも無給。しかし、創業者の孫であり、18歳には入社の蓋然性ありとして賃セ男性学歴計全年齢平均を採用。
  • 17歳の女子高生。学業優秀で大学進学希望。今後50年の間に賃金の男女差も縮む可能性ありとして、賃セ男女大卒平均を採用。

 

2)高齢者・年金受給者

就労の蓋然性があれば、賃セ産業計企業規模計学歴計男女別年齢別平均が基本。

 

高齢者の死亡逸失利益については、年金・恩給の判断が重要ポイントです。

 

年金・恩給の収入については、逸失利益と認められた場合と認められなかった場合があります。

 

弁護士さんによく研究してもらい、認めてもらえるようにがんばりましょう。