【1.後遺障害逸失利益の算定方法|交通事故の消極損害】

障害を負って生きる人生の収入減少分

このページでは、後遺障害逸失利益について説明します。

 

これは、後遺障害を負ったために、事故後の人生で減少するであろう収入の減少分です。

 

実際は、事故後に宝くじに当たるかもしれないし、しばらく後に死んでしまうかもしれないので、将来の収入などわかりません。

 

しかし、それぞれ平均寿命まで生きて安定した収入を得続けたと仮定して、障害を負わなかった場合と負った場合の差額を計算してみることはできます。

 

将来のことはわからないなどと言い出すと、将来に対する損害賠償が成立しなくなるので、こういう方法で決めるのです。

 

障害が重いほど、後遺障害逸失利益は巨額になっていくので、とても重要な費目です。

 

この損害費目の基本的な計算方法をまとめました。

 

事例は主に「赤本(※)」から抜粋しているので、正確な情報が必要な場合は原本を参照してください。

 

※「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」 弁護士が賠償請求額を決める時に使うバイブル

 

基本的な計算方法

次の式が基本になります。

 

後遺障害逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

計算例

症状固定時の年齢が50歳で、年収500万円の男性サラリーマン。

 

後遺障害による労働能力低下が35%だったとする。

 

逸失利益=500万円×0.35×11.2741(*)

 

*50歳から67歳までの就労可能期間17年のライプニッツ係数

 

被害者が未成年の場合の計算例

ライプニッツ係数の出し方だけが違います。

 

例えば、被害者が10歳だった場合、18歳から67歳までの就労期間49年に対応するライプニッツ係数18.1687ではありません。

 

A: 10歳から67歳の57年間に対応するライプニッツ係数18.7605

 

B: 10歳から18歳の8年に対するライプニッツ係数6.4632

 

A−B=18.7605−6.4632=12.2973

 

この値を用います。

 

理由は、被害者が実際に就労して稼ぎ始めるのは8年後なので、8年間の資金運用で増やせる中間利息を控除する必要があるからです。

 

同じ障害内容でも、子供が10歳の場合は18歳の場合より受取額が小さいことになります。

 

親からすれば納得しがたいかもしれませんが、金利5%複利計算での中間利息控除を是とすればこうなってしまいます。

 

詳しくは、後述の「中間利息控除」を読んでください。

 

基礎収入

事故前の現実収入を採用するのが基本です。

 

しかし、将来、現実収入より高い収入が得られる立証があれば、それを採用することも認められます。

 

ほかに、収入変動の多い職種、家事従事者、失業者の基礎収入をどう扱うかといった問題について、判例が蓄積されています。

 

イレギュラーなケースではそういうものを参考に請求することになります。

 

労働能力喪失率

「労働能力喪失率表」をもとに、状況を総合的に判断して、具体例に当てはめて評価します。

 

これは労働省労働基準局が出している資料で、後遺障害等級別に基本となる労働能力喪失率が定めています。

 

「総合的判断」においては、被害者の職業・年齢・性別・後遺症の部位・程度・事故前後の稼働状況などが考慮されます。

 

労働能力喪失期間

次のようなことが原則になっています。

 

  • 労働能力喪失期間の始期は、症状固定日。
  • 未就労者の就労の始期は、原則18歳だが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業時とする。
  • 労働能力喪失期間の終期は、原則67歳。

 

この原則だけでは、高齢者はまともな補償を受けられないケースが出てくるので、補正のルールができています。

 

  • 症状固定時の年齢が67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の1/2を労働能力喪失期間とする。
  • 症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の1/2より短くなる場合は、平均余命の1/2を採用する。

 

なお、労働能力喪失の程度は一生持続するとは限りません。

 

むち打ちのように、本人にしかわからない症状については、時とともに軽減すると考える場合もあります。

 

むち打ちの場合、12級で10年程度、14級で5年程度に労働能力喪失期間を制限する例がよく見られます。

 

しかし、必ずそれを受け入れなければならないわけではなく、具体的症状に応じて判断すべきだと、赤本には書かれています。

 

中間利息控除

10万円を毎年10年間にわたってもらうのと、一度に100万円もらうのとは値打ちが違います。

 

単純計算ではどちらも合計100万円ですが、後者は運用によって利子分を増やせます。

 

だから、将来にわたって少しずつ渡すべきものを一度に渡すなら、利子分は割り引いておかねばならないという理屈になります。

 

これが中間利息控除です。

 

将来の損害を少しずつ払うことにすると、途中で加害者が支払い不能に陥る危険があります。

 

逆に加害者が早く死んだ場合、賠償金を払い続ける必要があるのか、という問題も発生します。

 

そうした問題を避けるため、将来の損害の賠償は分割払いではなく、一括払いで行われます。

 

よって、中間利息控除の適用が必要になります。

 

計算を簡単にするために、労働能力喪失期間と中間利息控除を合わせて一つにした係数を使います。

 

これはあらかじめ計算されて期間の長さ別の表になっています。

 

単利方式がホフマン係数、複利方式がライプニッツ係数で、すでに述べたようにライプニッツ係数の採用が定着しています。

 

中間利息控除の利率に関する議論

利率は5%、利息計算は単利ではなく複利、と判例は定まってきました。

 

銀行の預金利子がほぼ0%に近いこのご時世に、5%などおかしいのではないか、という意見はもっともです。

 

しかし、支払いが遅れた時の遅延利息もこれに合わせておかないとつじつまが合わないという問題があります。

 

遅延利息を下げてしまうと、支払いが遅れる方向に拍車をかけてしまいます。

 

そういうわけで、裁判所の判断は5%の採用に定まってきました。